「リテラシー」&「ファクトチェック」

「リテラシー」&「ファクトチェック」

現役学校教師の「literacy」&「fact check」ブログ

左派・右派分析の必読対談。

 

 


とても内容のある対談記事で、私の考えと同じ部分も多かったです。

古谷氏は右派的な論調の方ですが、この対談ではフラットな立場から左派・右派を論評しており、的確な指摘が多いように感じます。

ぜひご一読ください。

 

【一部抜粋1、赤字は独自】

辻田 それにしても、「ネット右翼」とは組み合わせの悪い言葉です。近代国家は新聞などのメディアが同じ言語を使って均質の情報を伝えることで国民を1つに統合してきました。しかし、ネットは人によって見える世界が全く異なり、国民を統合するどころかバラバラに寸断してしまう。一方で、「右翼」とは、国や国民を統合することを好みますから、本来は対立する概念のはずです。そもそも、ネット右翼に思想信条があるのか疑問に思うのですが

古谷 確たるものはないと思います。私はネット右翼を「保守系言論人や文化人の理論に寄生する烏合の人々」と定義しているんですよ。

辻田 非常に面白い指摘ですね。実際、彼らは「偉い」と思った人の言葉をそのまま繰り返しているだけです。ある種の「左翼」にしても同様で、キーワードに反応する人々ばかりになってきている。それこそ、ネット右翼は「反左翼」で、逆に左翼の側は「反右翼」、「反安倍」でしかない。両者ともアンチの塊なので、建設的な議論に発展せず、自分たちが気に入らない言論にレッテルを貼り攻撃するだけになっている

 

【一部抜粋2、赤字は独自】

古谷 一部の保守系の言論人の責任も重いです。ネットに広まる様々なデマは、ある程度広まってくると、「真偽不明ながら」などの注釈をつけて、彼らが拡散するんです。元空将の田母神(たもがみ)俊雄氏、最近だとアメリカの弁護士のケント・ギルバート氏などが、そういった拡散を行っていますね。それに“お墨付きを得た”ネット右翼がさらに拡散する

辻田 加えてマスコミの側の責任も指摘したいですね。ネットが力を持ち始めた頃、既存のマスコミは、「マスコミvs.ネット」という図式を自ら作り、「ネットは便所の落書きと一緒」などと見下してしまった。ネットだって、偏向もあれば正論もあるメディアの1つなのに。その反動でマスコミ側が態度を大きく改めた今でも、ネットはテレビ・新聞を叩けばやたら評判を博する不健全な空間となっています。新聞でも雑誌でも昔の読者は、この言論人は「朝日新聞」を中心に活動しているから左だとか、この人は「産経新聞」だから右だなどと自然と発言の座標軸を頭の中に浮かべることができました。バランスをとりたい人は新聞を何紙も買って比較をしていた。一種のフィルタリングですが、その機能が絶たれてしまったのです。その結果、ネットの歪んだ意見が上手く中和されず、かつては相手にされなかったような陰謀論までも、まともな意見とフラットに並べられてしまうようになった

古谷 「テレサヨ」なる言葉も生まれているのをご存知ですか? 森友・加計問題を連日放送したことで、ネット右翼は、テレビ局はどこも「反安倍」であるとのレッテルを貼った。そこで、「テレビばかり見ている人間は、無知な左翼だ」という妄想に発展し、テレサヨなる言葉を生んだのです(笑)。

辻田 酷い話ですが(笑)、言論の座標軸を想起しにくい人ほど、この手の陰謀論に踊らされがちです。

古谷 今振り返ると2004年は、ネット右翼にとって大きなエポックメイキングだったと思います。右派系独立放送局の「チャンネル桜」がこの年に誕生しました。そして2007、8年頃から同番組はYouTubeニコニコ動画へ転載されるようになり、爆発的に広まっていきます。このときから保守系の言論人と自然発生的に生まれたネット右翼共依存関係が始まったんです。それまで、保守系言論人は『正論』などに原稿を載せても大した反響をもらえなかった。ところが、YouTube中韓の悪口を載せると3万回再生されたり、「先生のいうことは素晴らしい」などと反響が書き込まれる。櫻井よしこさんや故渡部昇一さんのような大御所ではなく、中堅以下のほぼ無名だった「保守系言論人予備軍」たちが一躍脚光を浴びるようになっていったのです。彼らは支持を増やすためにより過激によりわかりやすい「敵」への批判を繰り返していった

 ネット右翼200万人のうちの0.5パーセントでも本を買ってくれれば、1万部売れることになります。書き手も出版社も儲かるからその手の本が粗製乱造されるわけです

辻田 まさに「保守のビジネス化」。保守言説の粗製乱造というのは非常に納得がいきます。ある講演会関係の仕事をしている人が、「保守系の人はいつも『古事記』の話ばかりで飽きた」と言っていました。それから二言目には「ここだけの話ですが、先日、安倍さんと食事をして……」という自慢話ばかりするタイプしかいなくて辟易すると

古谷 この手の保守系の論者はこぞって安倍首相に近しいことを勲章としていますね。せいぜいが「秘書と電話した」程度でしょうけど。

辻田 言論人は一般人より少し高いところに立って、広い視野から発言すべきだと思うんです。ところが、保守の界隈は、どんどんネット右翼に接近し、到底言論とは言えない罵詈雑言を著作や動画などで発表するようになってしまいました

ところで現在、ネット右翼の最大のトピックはなんですか。

古谷 いまは沖縄です。つい最近まで、在日コリアンが税金を払っていないとか不逮捕特権があるといったような話が「在日特権」として広められました。それで、彼らの多く住む東京の新大久保や大阪の鶴橋では、実際に反韓国のデモを行う集団が現れたことが大きなニュースとなりました。ところが、「在日特権」なるシロモノは何1つ証拠が出てこない。トレンドが変わりました。

辻田 実際はそんな特権はなかったわけですね。

古谷 そこで、浮上してきたのが沖縄でした。米軍基地反対運動をしている人の中には、三里塚闘争なんかにも参加したような古くからの左翼もいた。その抗議活動の映像がYouTubeなどに載せられたことで一気に火がついたのです。さらに「在日特権」のときには「オレ特権を持っているんだ」と名乗り出る在日コリアンの人は一人もいませんでした。「敵」の内部に味方がいなかった。ところが、沖縄県民の「保守的」な人の中には「基地賛成派」がいますから、彼らを大きく取り上げることができた。そして「反基地運動家には中国の工作員がいる」などという根拠のない主張がネット空間で声高に叫ばれるようになった。

辻田 「沖縄」という都合のいい記号やネタを見つけただけですね。新しい語り口で人をたきつけることができれば何でも利用する。このような焼畑を続けていても絶望的な未来しか考えることはできません。それは日本という共同体や同胞意識を次々破壊していく行為であって、ナショナリズムではないし、保守どころか右翼ですらない。また、本来であれば日本をまとめる「大きな物語」の再構築を図るべき保守系言論人の界隈から批判がまったくと言っていいほど聞こえてきません。むしろ、ビジネスチャンスと捉えて応援していることも問題だと感じます